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ひるねこのお散歩

高校生の姉弟のリアルな観察日記。

ひるねこ図書室。『貴族探偵』は本気のロジック!

  先日始まったフジテレビ月9ドラマ『貴族探偵』が面白かった。自分では推理をしない探偵である。では安楽椅子探偵なのかと思いきや、そういう事でもない。『推理などという雑務は使用人にやらせる』のだそうだ。貴族なので…笑。ドラマはキャストや演出などが凝っていて、コメディの要素もあり、確かにあたし好みで面白かったのだが…ちょっとその、推理をしないという意味がわからなくて。 

  ネットでは賛否両論。やはり推理をしない探偵に戸惑う意見も多かったようだ。せっかく『嵐の相葉雅紀』を使っているのに、何故素敵に推理をさせないのか?

  …だが、原作を読んだファンの感想はほぼ『素晴らしかった』『世界観を忠実に再現していた』だったように思う。原作を読んでいないあたしにはよく理解できなくて…もどかしいので早速読んでみた。

f:id:hirunekotan:20170420175558j:image*貴族探偵  麻耶雄嵩  集英社文庫 ¥660+税

職業=貴族、趣味=探偵の男が難事件を解決する⁉︎ どんでん返しの連続、本格ミステリー。(帯より引用)

『貴族探偵』が使用人に推理をさせて、事件を解決する短編集である。

  まず、東野圭吾の『名探偵の掟』とか『名探偵の呪縛』なんかに似ている印象。東野圭吾のこの作品たちは、作家自らミステリーを茶化しちゃっているようなシニカルさが魅力である。それに比べると『貴族探偵』はもう少し真面目な印象。作者は決してミステリーを茶化していない。『ロジックだけでミステリーは成立するのか?』と本気で挑戦してきているような気がする。

   まず、主人公の探偵の氏名がない。背が高くスラリとしていて、髭をたくわえ、女性をすぐに口説く。皇室御用達の高級スーツを着こなし、いつも使用人を従えている。…一冊読んで主人公の情報はこのくらい。

  推理をする使用人たちは苗字だけで、名前がない。キャラクターの設定は外見のみ。それも、ごくあっさりしている。性格や生い立ちなどの情緒的描写は一切ない。使用人達が行う推理は理論整然としていて…しかも過剰な演出はなく。淡々としている。そうだ、まるで…数学の証明問題を解説しているようだ。登場人物にあえてあまり情緒的な面を持たせずに記号化して、逆にロジックを際立たせているようにも見える。

  探偵側の登場人物にはあっさりとしている作者だが、被害者、容疑者などその他の登場人物にはちゃんと名前があり、性格や背景も描写されている。どの作品にも魅力的な女性が登場して、ほぼ全員を主人公が口説く笑。(←例外もある笑)…美しく目が印象的な快活な女性が多く、きっと麻耶雄嵩氏の好みのタイプなんだろうなぁと思う笑。

  毎回違う刑事が登場するが、こちらの描写にはあまりやる気が見られない。特に面白いキャラクターを登場させようなどという意図は微塵も感じられない。また、作者は動機にもさほど興味はないようで、淡々としたものである。あくまでもロジック勝負なのだろう。

 

  『貴族探偵』には五編の短編が収録されているが、どれも個性的で面白い。特に気に入ったのは三編目の『こうもり』である。北陸の高級老舗旅館が舞台である。女友達との旅行中に、ふとしたことから事件に巻き込まれた、女子大生(←庶民)の目線で描かれており、上流階級の暮らしぶりへの憧れに素直に共感し、一緒に旅行をしているような気持ちになる。何よりも、読み終わった後に『やられた〜!!』と…なんだか笑ってしまう作品である。トリックそのものよりも、作者のアイディアと筆力が素晴らしい。…これって反則じゃない?と思い、読み返してみたが、全くフェアであり…素直な(←単純な…笑) あたしは、すっかり騙されてしまった。賛否両論あるのかもしれないが、未読の方は、ぜひぜひ読んでみて欲しい。

 

  最後にドラマ版との比較であるが…ドラマ版『貴族探偵』の相葉雅紀の飄々とした雰囲気が、小説の世界観とよく合っている。小説ではメイドは20歳前後の可愛い女の子であったり、運転手は身長が2メートルに届きそうな大男であったりと多少設定は違うが…原作の持つ独特の雰囲気はそのまま映像化されている。さらに、TVドラマならではのエンターテイメント性もあり、原作ファンも、ドラマファンも楽しめそうである。

  なお、ドラマで武井咲演じる女探偵、高徳愛香は続編の短編集『貴族探偵対女探偵』の登場人物である。こちらも、機会があれば感想をブログにあげたい。